【看護師が教える】大杉漣さんに続いて左とん平さんの訃報。若い方でも急に亡くなることが多い「心不全」を解説します。

 

 

突然の訃報でした。 

   

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 俳優の大杉漣さんが2月21日、急死されました。享年66歳。

 スマートホンの画面に出た速報に、驚いた方は少なくないと思います。

 前日の夕食後、腹痛を訴えて病院に向かったものの、快方せず死亡されたとのことで

 す。

 死因は「急性心不全」。

 

俳優の大杉漣さんが21日午前3時53分、急性心不全のため死去した。66歳。20日に千葉県内で出演中のテレビ東京ドラマの撮影後に不調を訴えて向かった病院で、急死した。

 

 前日までドラマ収録やその後食事をするなど普通に過ごされていました。亡くなる直

 前は以下の様子だったそうです。 

 

 20日は千葉県内で出演ドラマの収録に元気に参加。午後9時頃まで撮影を行った後に共演者らと食事。その後、ホテルの自室に戻り、激しい腹痛を訴えたという。同番組で共演する俳優・松重豊(55)に介抱されてタクシーで同県内の病院に搬送され、共演者やスタッフらにみとられながら息を引き取った。

 

 これらの記事からも急に容態が悪化したことが分かります。

 心よりご冥福をお祈りするとともに、ご遺族に哀悼の意を表したいです。

 

 「急性心不全」とは?

 それでは、所属事務所から大杉さんの死因として公表された「急性心不全」とは何

 なのでしょうか? 心臓が持つはたらきと共に解説していきたいと思います。

 

心臓のはたらき

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  • 心臓は頭や足など体全体に血液を送り出すポンプのような仕事を担当。
  • 1分間に約60~80回(1日に10万回以上)拍動している。
  • 1回の拍動で送り出される血液の量は約50mlなので、1分間で約3~4リットル。
  • 人の握り拳ぐらいの筋肉でできていて、重さは200~300g程度。
  • 心臓は4つの部屋(右心房、右心室、左心房、左心室)からできている。

 

血液の流れ

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 私たちの体の中を流れる血液には、呼吸によって取り込んだ酸素や食べ物によって取

 り込んだ栄養分が多く含まれています。この血液が心臓から送り出されて、全身をま

 わるときに、体の細胞へ酸素と栄養分を供給していきます。

 

 まず、左心室を出発としてみていきます。心臓のポンプ機能によって左心室が収縮

 し、大動脈を通って全身に送り出されます。全身をまわって大静脈から右心房に戻

 り、続いて右心房からその下の部屋である右心室へ入ります。そして、右心室の収縮

 によってその血液は肺動脈を通り、肺へと送り出されます。肺で酸素を取り込んだ血

 液は肺静脈から左心房に戻り、左心房から左心室へと送られ、同じように全身に送り

 出されていきます。

 

 これら4つの部屋がリズムよく拍動を繰り返すことで、心臓は効率的に血液を送り出

 すことができるのです。

  

 心不全は病名ではありません。

  実は、心不全は実は病名ではありません。

 「心臓の働きが不十分な結果、起きた体の状態」をいいます。 

 

 心臓には、全身に血液を送り出すポンプのような働きがありました。このポンプ機能

 が落ちると、心臓が送り出す血液の量(心拍出量)が少なくなります。その程度は

 様々ですが、少なくなりすぎると生命に関わってきます。

 

 そして、全身の血液の流れが悪くなります。その状態を「うっ血」といいます。この

 うっ血によってさまざまな症状が現れてきます。

 

急性期と慢性期の違いは?

 

 まずは急性期と慢性期についてです。看護学生さんが見ておられるので、それぞれの

 看護についても。

 

急性期では、患者さんの状態がどんどん変わっていくので気が抜けないのです。

 

 急性期とは、簡単にいうと「病気になりはじめた時期」のことをいいます。今回、大

 杉さんが亡くなられた診断名にも「急性」の文字が入っていました。

 

 病気やけがによる症状が急激に現れて、患者さんの身体的・精神的な負担が大きい時

 期でもあります。急性期は経過が早く、刻一刻と変化していく患者さんの状態をしっ

 かりと把握することが必要です。たった数時間でもがらりと容体が変わっていること

 も多く、現在のことだけではなく「朝はこうだった」、「1時間前にはこうだった」

 といった的確で詳細な状況報告、素早い判断、迅速な対応が求められます。

 

 医師などの他職種との連携をとりながら突然の容体急変のリスクにも備えなくてまな

 りません。患者さんの命と健康を守る急性期は、24時間気の抜けない緊張感のなかに

 も、やりがいは大いにあると考えられます。

 

慢性期では、今後の療養について考えたり、もとの生活に戻るための準備が必要です。

 

 慢性期とは、急性期とは逆で病状は比較的安定している時期です。

 

 再発予防や体力の維持を目指して、長期、患者さんによっては生涯にわたって治療を

 続ける必要があります。患者さんが治療に対して後ろ向きになってしまう場合もある

 ので、その気持ちを受け止めながら社会復帰を後押しすることが大切です。

 

 慢性期は、生活習慣病などで入退院を繰り返す患者さんも多いです。高齢者が比較的

 多いため、治療後の退院が難しかったり、転院先に悩む社会的入院患者が多いのが現

 実です。ただ、経過がゆっくりなため患者さんとの距離が近く、1人1人とじっくり向

 き合って関わるところにやりがいを見出せます。他のステージと比べて急務が少ない

 ので、子育てとの両立もしやすいとも言われています。

 

原因はなにか?

 

 最も多い原因としては、心筋梗塞などの虚血性心疾患です。心臓に栄養を送っている

 冠動脈という血管に血の塊ができて詰まってしまう病気です。

 

  1. 血の塊によって冠動脈がつまって、血液の流れがせき止められてしまう。
  2. すると詰まった先の血管に血が行きわたらなくなる。
  3. そうした時間が続くと、心臓も細胞から成り立っていることから、心臓の細胞は酸素や栄養不足によって死んでしまう。
  4. 心臓の細胞が死ぬということは、血液を送り出すポンプ機能が低下して、全身に血液が行きわたらなくなることを指す。
  5. 心臓だけでなく、全身の細胞が死んでしまう。最終的には死に至る。

 

 心筋梗塞ではすさまじい胸の痛みがあります。ほかにも放散痛といって、背中や顎、

 左腕、胃のあたりが痛むこともあります。中には歯の痛みを訴える患者さんもいま

 す。

 

 大杉さんは「急性心不全」との診断でしたが、心臓の病気はないとのこと。

 多くは何かしらの心臓の病気をもとにして心不全に至ることが多いです。急に心不全

 が発症することもなくはないですが、かなり稀ということからも、亡くなる前のお大

 杉さんのお腹の痛みはこの放散痛による胃の痛みであったかもしれません。

 

どんな症状があるのか?

 

 心臓に戻ってこようとする血液がうっ血すると、この血液がしみ出して肺の中に水分

 が溜まってしまい、激しい呼吸困難と同時に咳と痰が出ます。泡のようなピンク色の

 痰になります。

 

 肺に水分が溜まって酸素の通り道である気管支が圧迫されて酸素が入ってきにくい上

 に、心臓は全身に血液を送りにくい状態なので、チアノーゼ(唇が紫色になるこ

 と)、手足の冷感、全身に冷や汗をかきます。脈が速くなり、動悸を訴えることもあ

 ります。このような状態が急速に出現し、悪化していくことが急性心不全の特徴で

 す。

  

治療内容

 症状などを診察した主治医の判断で様々ですが、呼吸困難があるため酸素吸入を始め

 たり、体内に水分が溜まるから利尿薬(尿の量を増やす薬)、気管支が圧迫されるか

 ら血管拡張薬、心臓のポンプ機能が低下することから強心薬などが投与されます。

 

 呼吸の状態が非常に悪い場合は、気管内挿管をして人工呼吸を行います。利尿薬に

 よって体の外へ水分が抜けていくと呼吸は楽になっていきます。同時に、心不全の原

 因となる心筋梗塞や不整脈などに対する治療を行っていきます。

 

看護

 

 私が看護師として心不全患者さんにお伝えすることとしては、

  1. 仰臥位(あおむけで横になる姿勢)で悪化するので、呼吸困難は半座位(上半身を起こした姿勢)、起座位(座った姿勢)で楽になります。
  2. 悪化させる要因として、風邪などの感染症、過度の活動、塩分や水分の制限を守らないことなどがあるので注意していただきます。

 

 これらは症状が落ち着いた患者さん向けですかね。 

 一度心不全になると残念ですが、完全に回復することは不可能です。患者さんの多く

 が入退院を繰り返していきます。

 

 悪化と改善を繰り返すたびに重症化していき、そのたびに心臓の機能が低下していき

 ます。そのため、生涯にわたって管理が必要になり、その方に合った生活や療養行動

 をしていく必要があります。

 

 進行性で機能は低下していくことから、同じ管理を続けてしているだけでは心不全を 

 コントロールしていけません。そのため、生活や療養行動も変化していく必要があり

 ます。

 

 ご本人はもちろん、そのご家族にも病気についての理解を深めてもらい、内服薬の管

 理、塩分摂取,血圧や体重のモニタリングなど患者さんやご家族自らが管理していく

 能力を高めていってもらいます。前述した病期に合わせ変化させることも課題となり

 ます。そして、管理にばかり目を向けるのではなく、病気になる前の生活の質をでき

 るだけ保ち、その人らしく生活していっていただけること大切です。