5年生存率は7.7%.../膵臓がん

膵臓がんはがんの中でも最も難しい病気

 

1/4にプロ野球で監督を務めていた星野仙一さんが膵臓がんのため70歳で亡くなったというニュースがありました。

 

私が星野さんをテレビで最後に見たのは、プロ野球のドラフト会議だったかと思います。もうその頃にはすでに療養生活に入っていたと考えられます。

 

みなさんが国試の過去問を解いている中でたまに見かける膵臓がんですが、どこまで把握できているでしょうか?

 

疾患を抜きにしても、そもそもの膵臓は心臓や肺、肝臓などの比べると影が薄いんですよね。

 

私が学生のときも、

 

「血糖値を下げるのが膵臓のランゲルハンス島のΒ細胞から分泌されるインスリン!」

 

正直、それぐらいの知識しかありませんでした。

 

ホルモン分泌以外にも、栄養素の消化・吸収において多くの働きを持っていましたね。

 

膵臓は後腹膜臓器です。後腹壁の壁側腹膜に接する部分に位置する臓器で、ちょうど胃の後ろ側の体の奥に位置しています。

 

そして、がんが発生しても症状が出にくく、早期の発見は簡単ではありません。その他、治療が困難で転移しやすく、生存率が低いと悪条件が揃っているため、がんの中でも最も難しい病気とされています。

 

国立がん研究センターの統計では、全てのがんの5年生存率が62.1%の中、膵臓がんは7.7%と、数種あるがんの中でも最も低いです。

 

2番目に低い胆管がんが22.5%であることからも、群を抜いて難しいかが分かるかと思います。そして、10年生存率をみると4.9%まで下がってしまいます。

 

近年、著名人が数人この病気で亡くなられています。

私が知っている限りではアップルのスティーブ・ジョブスさん、歌舞伎役者の坂東三津五郎さんなど。

 

 

国試でも過去に出題されていますので、膵臓について少し学んでいきましょう。

 

 

1.膵臓について

 

 f:id:ns-note9:20180112232017j:plain

 

膵臓は後腹膜臓器でしたね。

胃の後方にある長さ約20cmほどの細長い臓器です。

 

画像正面からみて左側の膨らみのある部分を膵頭部といい、十二指腸に囲まれています。幅が狭くなっていく部分を膵尾部といい、こちらは脾臓に接しています。また、様々な血管に囲まれていることからも手術が難しいとされます。膵臓の中央は体部で、膵管が膵臓を貫いています。

 

膵臓には大きく2つの役割があります。

 

①食物の消化を助ける膵液の産生

②血糖値調節などをするホルモン(インスリンなど)の産生

 

①を外分泌機能、②を内分泌機能といいます。

 

消化を助ける膵液は膵管によって運ばれ、主膵管という1本の管に集まります。

 

ファーター乳頭(十二指腸乳頭)で肝臓から総胆管を通って運ばれてくる胆汁と合流して、十二指腸へと流れていきます。

 

膵液に含まれる消化酵素は何でしたっけ?

糖質は?タンパク質は?脂質は?

 

胆汁はどの栄養素を消化していくために必要でしたっけ?

 

2.膵臓がんについて

 

 

膵臓を構成するものとして、以下の細胞があります。

 

①消化酵素を分泌する腺房細胞

②消化酵素を十二指腸へ運ぶとともに、十二指腸に流入した胃酸を中和するアルカリ性の膵液を分泌する膵導管細胞

③血値糖を下げるインスリンや上昇させるグルカゴンなどのホルモンを産生するランゲルハン

 

膵臓にできるがんのうち90%以上は、膵管上皮にある膵導管細胞にできます。これを膵管がんといい、膵臓がんとは通常この膵管がんのことを指します。

 

3.症状

 

自覚症状は初期には症状は出にくく、無症状か上腹部の不定愁訴、進行すると上腹部痛、食欲不振、黄疸、背部痛(背中や腰の痛み)、糖尿病など。末期では、吐血や下血、腹水などが現れます。

 

無症状で発見されることは約20%程度で、多くは有症状であるとされています。発症時の症状としては腹痛が最も多く、黄疸、腰背部痛、体重減などが続きます。

 

ただ、これらの症状は膵臓がん以外でも起こる非特異的な症状であって、膵臓がんでも症状が起こらないことがあります。

 

他の部位のがんに比べて、罹患数と死亡数がほぼ同数と罹患数に対する死亡数の割合が極端に高いのが特徴で、死亡数では順位が高いです。

 

死亡数増加の原因は人口が高齢したことが大きいですが、

 

①症状が出にくい

②症状が出たとしても上記のように特異的な症状がないため、見逃してしまう

膵臓がんに対する有効なスクリーニング検査法がない

 

これらも要因として挙げられています。

 

見つかった時点で末期の場合が多いですが、最後まで通常の生活ができる方も多く、亡くなる1ヶ月前まで働いている方もいると聞いたことがあります。

 

そして、肝臓や腹膜、リンパ節などに転移しやすいとされています。

 

 

4.発生要因

 

膵臓がんのリスクファクターとしては、膵臓がんの家族歴、糖尿病、慢性膵炎や糖尿病、肥満、喫煙など挙げられています。

 

家系に2人以上、膵臓がんの人がいる場合、リスクは通常の約7倍とされています。

 

ちなみに、星野さんは2016年に急性膵炎を発症したことがきっかけだったようです。

 

膵臓がん罹患者が身内にある方や糖尿病と診断された方、血糖コントロール不良となった方、膵炎や膵のう胞と診断された方は40歳を越えたら、年に1回は病院で検査を受けることをお勧めします。

 

 

5.予防とがん検診

 

日本人を対象とした研究結果から定められた、科学的根拠に基づいた「日本人のためのがん予防法」では、禁煙、節度のある飲酒、バランスの良い食事、身体活動、適正な体形、感染予防ががんの予防に効果的とされています。

 

がん検診の目的は、がんを早期発見して適切な治療を行うことで、がんによる死亡を減少させることです。

 

日本では、厚生労働省の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(平成28年一部改正)」で検診方法が定められています。

 

しかし、膵臓がんについては現在、指針として定められている検診はありません。そのため、気になる症状がある場合には、医療機関を早期に受診することが勧められます。

 

 

6.ケア

 

膵臓がんは痛みや吐き気などの症状を伴うことが多いので、多くの場合、症状を和らげるための医療(緩和ケア)が行われます。

 

全身状態が悪く治療の負担が大きすぎると考えられる場合などには、無理せず症状のつらさを和らげる治療に専念することも考えられます。

痛みや吐き気への治療には、以下が用いられます。

 

放射線治療

薬物療法(非オピオイド鎮痛薬、オピオイド鎮痛薬、鎮痛補助薬など)

③神経ブロック

 

緩和ケアは、がんと診断されたときから、QOLを維持するために、がんに伴う体と心の様々な苦痛に対する症状を和らげ、自分らしく過ごせるようにする治療法です。

 

緩和ケアは、がんが進行してからだけではなく、がんと診断されたときから必要に応じて行われるもので、患者さんのニーズに応じて幅広い対応をします。

 

患者さん本人にしかわからない辛さもあります。うまく伝えられない患者さんもいらっしゃいます。

きちんと思いを受け止めて、その方々への個別性を尊重した関わりが必要です。